アンジェルマン症候群啓発講演会のご報告

9月9日(東京)、10日(京都)と両日に渡り、オランダからアンジェルマン症候群の研究の第一人者であるエラスムスメディカルセンターの分子神経科学教授Ype Elgersma先生、日本からは東京医科大学小児科/遺伝子診療センターの沼部博直先生、名古屋市立大学大学院医学研究科の斎藤伸治先生をお迎えし、『アンジェルマン症候群啓発講演会』を開催しました。エンジェルの会としては初めての試みでしたが、東京は150名、京都は130名余りの参加者が一堂に会し、熱気にあふれる講演会となりました!

Ype Elgersma先生との出会いは2012年のオランダ第二の都市ロッテルダム。まだASA(Angelman Syndrome Alliance)が発足する前、オランダのニナファンデーションが世界各国の親の会や研究者等に呼び掛けて行った国際会議の際でした。アンジェルマン症候群の最先端の治療研究について、素晴らしい発表を行い満場の拍手を浴び、また他の研究者の発表に対しては鋭い質問をぶつける長身の研究者…その人こそ今回来日されたYpe先生でした。改めてよく見てみると、エンジェルの会のHP内『エンジェルの会の活動成果』(https://angel-no-kai.com/report/)の画像にも、他の研究発表を聴きながらパソコンに向かう先生の姿が映り込んでいるではありませんか!いかに当会と縁が深いかを感じてしまいます。

今回の講演会はYpe先生が2017年9月に仙台にいらっしゃるということを知った渉外部のNYさんが、「日本にいらっしゃるなら是非私たちの会でもお話をしていただけないでしょうか?」と先生に直接アプローチしてくださったのがきっかけとなりました。初めての国際会議ということで、会場探しから通訳の手配、助成金の獲得(田辺三菱製薬『てのひらパートナーシップ』から50万円、そして北川奨励賞から30万円)、資料の作成や翻訳等、手探りの中奔走しましたが、会員の皆さまの素晴らしいチームワークにより実現することができました。心から感謝致します。

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  • 9月9日東京講演

 

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  • 東京では、2017年9月9日13時から16時、丸の内線茗荷谷駅からほど近い筑波大学社会人大学院の134講義室という階段教室で開催しました。会の始めに、副会長挨拶をさせていただきました。その中でアンジェルマン症候群児と共に生きてきた26年間を振り返り、やはりこの障害は決して軽くないこと、26年間を悔いることは決して無いが、この障害が治療できるようになり、話したりスムーズに歩けたり知的障害がなくなったりするのなら、それは素晴らしいことだという親の思いをお話させて頂きました。その後、北川奨励賞の事務局である特定非営利活動法人コーポレートガバナンス協会 事務局長高橋渡様からも元気の出るお言葉を頂き、会はスタートしました。

     

    • 沼部博直先生 講演内容

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     沼部博直先生は『アンジェルマン症候群の基本的情報』という演題で講演されました。まずDNAと遺伝子について基本的な内容のおさらいをした後、先天異常の発生頻度や染色体異常についてパワーポイントを使いながら説明をされました。そしてアンジェルマン症候群の話に入り、まずは発見者Harry Angelman博士の記述を参照しながら発見と研究の歴史、その症状、発生頻度について解説しました。後半は次のYpe先生の話の導入となるアンジェルマン症候群の原因について、15番染色体15q11-13領域の欠失、片親性ダイソミー、ゲノム刷り込み現象についての解説をされました。さらに日本独自の医療制度である小児慢性特定疾病や指定難病の指定基準やアンジェルマン症候群が指定されたことについて説明をされました。

     

    • Ype Elgersma先生 講演内容 

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休憩時間を挟んで、Ype先生の講演が行われました。まず、ご自身が所属されているオランダ、ロッテルダムにあるエラスムスメディカルセンター神経発達異常専門センター内の『ENCORE』というアンジェルマン症候群専門病院と併設された研究室について説明されました。このアンジェルマン専門病院には100人以上の成人と100人以上の子どもたちが通院しており、研究所ではアンジェルマンマウスを作って実験を行っています。主にマウスの脳内でニューロンが如何に機能しているかを調べており、その目的はアンジェルマン症候群の人たちの生活の質を高めるためです。アンジェルマン症候群の症状である知的障害や発語の消失、てんかんと脳波異常、動作障害、睡眠障害や行動障害などはすべて母親譲りのUBE3A遺伝子の働きが損なわれていることから起こっていることが分かっています。治療研究には、現在行われている対症療法メカニズムに基づく治療(UBE3Aの役割を調べ、そこに作用する薬を開発)、さらに遺伝子療法、そして父親由来の遺伝子活性化の四つがありますが、メカニズムに基づく治療、遺伝子療法、父親由来の遺伝子活性化の三つの研究はいずれも対症療法と比べると効果が期待できて、いろいろな症状に対し一度で治療出来るメリットがあるそうです。中でも父親由来の遺伝子活性化には期待が持てるとし、ここ2~3年のうちに治験が始まるだろうとおっしゃっていました。その治療は、年少期の患者に行うとより効果的(特に運動機能回復等に)だが、学習能力等は大人のアンジェルマン症候群の患者にとっても効果がみられるというお話でした。

 

  • 9月10日京都講演

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 翌日9月10日日曜日の13時から16時、京都市勧業館『みやこめっせ』にて京都の講演会を開催しました。午前9時30分発の新幹線で、私はYpe先生ご夫妻と共に京都に向かいました。京都では午前中からすでに会員さんが多数集まって交流会が開かれており、その熱気はすでに新幹線の中でも時折役員の方から流れてくるSNSでも感じ取ることが出来ました。

 

  • 斎藤伸治 先生講演内容
  • Saito 京都講演

 斎藤伸治先生は『アンジェルマン症候群研究の最前線』と題して講演を行いました。ASの治療戦略について、遺伝子発現の復元を目指した治療に、外来遺伝子を導入する『遺伝子治療』と『父由来のUBE3Aの活性化』の二つがあり、また低下した脳機能の改善を目指した治療として『シナプス機能の改善』と『神経細胞機能の改善』の二つを挙げて解説されました。またASの治療研究を展開する方法として、モデルマウス、ヒトiPS細胞、患者の三段階があるとし、どうしても健康な人では研究できないため患者で治験を行う前段階でのiPS細胞での研究に期待が高まるとし、その樹立状況についても説明して下さいました。そして北海道大学でASの研究をなさっている江川潔先生の業績を紹介されました。

まとめとして、アンジェルマン症候群は遺伝性知的障害で最も研究が進んだ疾患の一つである、それは患者サポートグループの果たしてきた役割が大きかったと評価されました。またASの治療研究のためにはメカニズムを知ることが大事で、そのためにモデル動物を駆使した基礎研究は不可欠であること、そして患者や家族の協力なしには進めることが出来ないと強調されました。

  • Ype Elgersma先生 講演内容

 Ype 京都講演

その後、Ype先生が東京で行ったのと同じ内容で講演を行いました。その後、質疑応答の時間を設け、両先生からご回答頂きました。内容がかなり専門的だったのですが、斎藤先生が解説を加えて下さり、私たちの理解を助けて下さいました。またYpe先生は非常に聴き取りやすい英語で、噛み砕いてお話してくださりました。会員の皆さまの中には、通訳の方を通さずに理解し、情報共有して下さる会員の方もいらっしゃり、京都でも改めて皆さまの絆を感じることが出来ました。会場に入りきらないほどの会員さんが集まり、大盛況の中で終えることが出来ました。

京都の講演会が終わった後、先生方を囲んで夕食を頂きました。エンジェルの会にとって、また私たち役員にとっても素晴らしい経験となったことは言うまでもありません。先生方の治療研究の成功とアンジェルマン症候群児の幸せを祈りながら、終電の新幹線で京都を後にしました。(水川雅子)